風色の本だな

風色の本だな

『ことりをすきになった山』

 ラベンダーライン


私は、久々に我が父と母の元へと足を運んできました。

元気よく呼び鈴を鳴らすと、にこやかな顔で迎えてくれた父と母。

私は、いつもこの二人の顔を見る寸前に、一瞬ドキッとするのです。

“ああ~!もしかして、しばらく会わない間に、ひどく年老いてしまっているのではないかしら・・”なんて・・。

少しずつ年老いていってしまう親の顔を見るのは、つらいものですよね。

そんな風に思うのなら、もっと頻繁に足を運べばいいのにね。

父は今年の4月で80歳。母は5月で71歳になります。

実は、その昔、父は小・中学のPTA会長をしていたことがありました。

PTA会長といっても、地主とかその土地の名士でもなんでもない、その時代には珍しいほど、進歩的で新しい考え方を持った人でした。

当時の私はよく認識していなかったのですが、都Pの会長や全国のPTAにも携わっていた人でした。

寝る前に、必ず自作のお話を私と弟に語ってくれたのは父でした。

そう言えば、いつも筆を握って、机に向かって何かしたためていた筆まめな人だった。

それでも、中学時代の私は父の思いを知る由もなく、なぜか「PTA会長の娘さん」と言われることに抵抗や反発を感じていました。

思春期特有の反抗期だったのかなあ?

そして、「自分は親になっても絶対PTA会長なんかやらない!」って心のどこかで思っていたんです、実は・・・。

そんな私がどうしてPTA会長なんかやっているのか、運命とは不思議なものですね。

だからね、会長を引き受ける前に、私は娘に訊いたんですよ。

「お母さんがPTA会長を引きうける状況になったら、○○はどう思う?」って・・・。

娘からは「お母さんが必要だと思ったら、やった方がいいんじゃない?」という意外な答えが返ってきました。

あの頃の父がやってきたことをいつしか自分がなぞっていて、時々、そんなあの頃の父に思いを巡らせている・・・。

昨夜、長々と父とPTAの話をしました。

現在、私の同窓生が、私の母校であり、父がPTA会長をしていた中学のPTA会長をやっていることも・・・。

今になって、ようやく父がやってきたことが、とてもよく理解できる。

アドバイスもたくさんもらってきました。

私が自分の近況を話すと、「あまり無理をしちゃあだめだよ!身体を大切にしないとね。」なんて・・・私の方が気遣ってあげなければいけないことなのにね。

本当にいつまでも親不孝な娘です。

帰り際、母はあれも持っていきなさい、これも持っていきなさいと私のカバンを重くする。(私は、そんなに持ちきれないよと思うのだけれど・・。)

親にとっては、“子ども”はいつになっても“子ども”なんですよね。

親とは本当に有りがたいものです。

私もいつしか、久々に帰ってきた子どもたちに、同じようなことをするのかな?

こんな風に次々と、生命(いのち)のバトンを受け継いでいくのですね。

そして・・・限りある生命(いのち)だからこそ、尊いのですね。

 ラベンダーライン



 ことりをすきになった山


◆ 『ことりをすきになった山』   エリック・カール 絵/アリス・マクレーラン 作 /ゆあさふみえ 訳/偕成社


作者のアリス・マクレーランは文化人類学者としてアンデス山地の実地調査をし、博士号を得た3児の母で、絵本の仕事はこの作品が初めてでした。

「永い年月がもたらす変化のすごさとか、ひとつの命に託された何かが時間を超えて受け継がれていくすばらしさに魅せられて一人類学者の夢を書いてみました。この本の中のジョイのように、この絵本も親から子へまたその子どもへと、いつまでも親しまれることを願っています。」と語っています。

山の悲しみや愛、そして“ジョイ”という名前と命がまるでバトンのように受け継がれ、永遠の物語を作り上げています。

そして、愛と幸せというバレンタイン風のテーマを描いた絵本でもあります。


 鳥のライン


あれはてた野原に、ぽつんと 岩だらけの山がそびえていた。

ごつごつした山には、草や木が 一本もはえていなかったので

けものも ことりも むしも まったく すめなかった。

山は 太陽にてらされ、風にふかれることはあっても

やまはだにじかにふりかかるのは、雨や雪だけ。

そのつめたさしか、山は しらなかった。

とおいとおいむかしから、山は ながれる雲のさまを

みまもり、空ばかり ながめて くらしてきた。

空をわたる 太陽の道、月の道も よくしっていたし

すみきった夜には、はるかな星たちが ゆっくりとめぐるのを 

だまってみていた。

ほかには なにひとつ みえなかった。

ある日のこと、どこからか 一わのことりが やってきた。

ことりは 岩山の上を ひとまわりとぶと 岩かどにとまって

はねをつくろった。  

山は、ことりの ちいさなつめに やさしくつかまれるのを かんじ 

ことりがうずくまると、はねにおおわれた からだの やわらかさに びっくりした。


 鳥のライン



この本に出逢った時、まるで電気のような衝撃が、私の身体の中を走り抜けました。

なんて 熱く 果てしなく 永遠で ロマンチックな絵本なのだろう。

1987年に日本で出版されて以来、私はもう長い間、この絵本のファンであり続けています。

この愛と希望の物語は、いつ読み返しても、私の胸を熱くしてくれます。

エリック・カールの力強いコラージュ(貼り絵)がこの物語をさらに色という魔術で、暗い山に明るさが満ち溢れるまでをわかりやすく描き、私たちに感動を与えます。

ゆあさふみえさんの訳がとても素敵です。心の奥底まで熱く伝わってくる、印象的な絵本です。




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